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2017年10月 2日 (月)

小説:筒井康隆 「こぶ天才」

「こぶ天才」は筒井康隆の1975年の短編小説。
いかにも筒井康隆らしい毒のある作品である。

未来に宇宙生物が発見される。
ランプティ・バンプティ(発見された宇宙生物の名)は、それ自体はとても下等で
醜い生命体である。
しかし、人間の背中に寄生し、ランプティ・バンプティに寄生された人間は
とても頭が良くなるのである(IQが2倍になる)。
私なりの例えだが、PCにメモリを増設すると性能が良くなるが、
ランプティ・バンプティは人間の脳にとって増設メモリのような機能を果たすと
いうようなイメージであろうか。
しかし、寄生された人間は背中にこぶ(ランプティ・バンプティ)がある醜い姿となり、
しかも、一旦寄生されてしまったら、ランプティ・バンプティは完全に人体と一体化し、
無理に取ろうとしたら人間も死んでしまうのである。
つまりランプティ・バンプティに寄生された人物は、優れた頭脳と引き換えに
醜い姿となる訳だ。

ストーリーの舞台はその宇宙生物を販売する店、主人公はその店の店主である。
ランプティ・バンプティは大人に寄生しても効果を発揮しない。
(大人にも寄生はするが、頭は良くならない)
従って、親が嫌がる子供にランプティ・パンプティを無理矢理寄生させることに
なるのだが、問題はランプティ・バンプティを寄生させられるのは男の子ばかり
だということである。

店に来た母親が男の子にランプティ・バンプティを無理矢理寄生させようとして、
ランプティ・バンプティが男の子ではなく、母親にくっついてしまう場面を引用しよう。
(このあたりの場面は、いかにも筒井康隆らしいドタバタである。)

>「痛い痛い。 何するんです」 母親がもう一方の腕をふりまわし、おれの頬を
>いやというほどぶん殴った。
>「何するんだ」 おれはかっとして母親をつきとばした。
>彼女はふっとび、檻の金網を破ってランプティ・バンプティたちの上へ倒れこんだ。
>破れた金網で彼女の服が鉤裂きになり、露出したその背中を狙って赤黒だんだらの
>ランプティ・バンプティがとびついた。
>「きゃあ。とって。とって」 仰天して立ちあがり、彼女はあたりを踊り狂った。
>「早くとって頂戴」「檻の修繕が先だ」おれは破れめからとび出してきた
>ランプティ・バンプティどもを檻に戻し、金網の補修をはじめた。
>「くっついてしまう。くっついてしまう」 母親は床にぶっ倒れ、背中の
>ランプティ・バンプティをとろうとし、なま白い太腿を見せてのたうちまわった。
>「早くとって」「なあに。 あとしばらくは大丈夫だよ」釘を打ちながら、
>おれはわざとのんびりそう言った。
>「いっそのこと、あんたもつけたらどうかね」「いや。いや」 彼女はわめいた。
>「わたし女よ。女は馬鹿でいいの」「あきれたね。そんなことをいう女がいる限り、
>女の社会的地位は向上しないよ」
>おれはゆっくりと母親に近寄り、彼女の背中へここを先途としがみついている
>ランプティ・バンプティに手をかけながら厭がらせに念を押した。
>「ほんとにとっていいのかね。せっかくだ。坊やと一緒につけたらどうかね。
>あんたもつけるというのなら、坊やだってあるいは一緒につけると言い出すかも
>知れんよ」
>「いや。いや。いや。絶対にいや」
>「自分がそんなにいやなものを、なぜ子供にくっつけるんだい」

ランプティ・バンプティは、勿論、実際には存在はしない。
しかし、私には男性(特に現代男性)は様々な意味で、ランプティ・バンプティを
背負って生きているような気がするのである。
例えば、現代男性は美しくあってはならない。そんなことに気を使っている暇が
あったら、勉強をして成績を上げ、就職したら仕事に全てを打ち込まなければ
ならない。
そして、その結果、高い社会的地位に就くのである。
男性は、謂わば「社会的ランプティ・バンプティ」を背負って生きているわけだ。
それに対してフェミニズムは「女性が差別されている」と抗議する。
では、女性も男性と同じ社会的地位を得るためにランプティ・バンプティを背負い
醜い存在として行きてゆく覚悟があるのかと言えば、私には、とてもそんな風には
見えないのである。

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