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2018年4月 4日 (水)

伊藤公雄の「歴史修正主義」を批判する

今回は「歴史修正主義は右翼の専売特許」かと思っていたら、そうではなかったと
言うお話である。
「日本の男性学の第一人者」(苦笑)、伊藤公雄については、このブログで何度か
批判した。
その伊藤公雄が「学術の動向」2008-04に書いた
「ジェンダーの社会学 -男性学・男性性を中心に-」
という文章の一節を引用する。

>日本においても、1980年代に入ると、男性学・男性性研究がうぶ声をあげた。
>社会学分野では、筆者(引用者注:伊藤公雄)の「<男らしさ>の挫折」(作田・富永編
>『自尊と懐疑』、筑摩書房、1984)が、また心理学の領域では渡辺恒夫
>『脱男性の時代』(1987)などが代表的なものといえるだろう。

興味や知識のない人ならば、何も感じず通り過ぎてしまう文章かもしれない。
しかし「ジェンダー方面の研究で日本における最初の「男性学」提唱者は誰か」という
観点から見るとき、この文章は大きなウソを孕んでいるのである。
上の文章では、伊藤公雄が1984年、渡辺恒夫が1987年となっている。
(伊藤公雄は、渡辺恒夫の「脱男性の時代」を1987年と書いているが、実際には、
1986年なので、以下、1986年とする)
ここで、伊藤公雄は、さり気なく「オレの方が渡辺恒夫より先だ」とアピールしている
のである。
図書館で実際に本を確認したが、伊藤公雄が
作田啓一、富永茂樹編『自尊と懐疑 -文芸社会学をめざして』(1984)という書籍の
「<男らしさ>の挫折」という章を執筆したのは事実である。
一方、渡辺恒夫の男性ジェンダー研究に於ける代表作『脱男性の時代』は1986年である。
ということは、伊藤公雄が、日本に於ける「男性学」の嚆矢なのだろうか?

実は、カラクリがある。
伊藤公雄の「<男らしさ>の挫折」は、彼が一冊執筆したわけではなく、
他の編者による書籍の一章を執筆したに過ぎず、その書籍のテーマもジェンダーでは
なく「文芸社会学」である。
(表紙にも、章の最初にも「伊藤公雄」の名前は出ておらず、かろうじて、最後の方の
執筆者一覧で、当該章を伊藤公雄が執筆したことが分かる)

一方、渡辺恒夫の『脱男性の時代』は、渡辺恒夫が彼の名で全て執筆し、一冊丸ごと
男性のジェンダーについての書籍である。
そして、一番大事なことは『脱男性の時代』は書き下ろしというわけではなく、
渡辺恒夫が過去に書いた論文を一冊にまとめあげたものだということだ。
つまり、オリジナルはもっと古いのである。

伊藤公雄と渡辺恒夫を比較する時に、伊藤の「<男らしさ>の挫折」を基準にするならば、
渡辺恒夫は
「近代・男性・同性愛タブー -文明、および倒錯の概念(1)- 」高知大学学術研究報告
第28巻(1980)
を挙げなくてはならないだろう。
(つまり、伊藤公雄よりも4年早い。しかも、同論文では既に「男性学」という概念が
出てくるのに対し、伊藤公雄の「<男らしさ>の挫折」に「男性学」の文字はない。(注1))

逆に、渡辺恒夫の『脱男性の時代』を基準とするならば、伊藤公雄は
『<男らしさ>のゆくえ - 男性文化の文化社会学』新曜社、1993となる。
(つまり、渡辺恒夫の方が7年早い)

それを、伊藤公雄は恣意的なダブルスタンダードによって、あたかも自分の方が
先であるかのように書いているのである。

このようにして、伊藤公雄は着々と「歴史修正」を加え、そして、いまでは、
あたかも「自分が日本に於ける男性学の最初の提唱者です」というようなことを
言うに至っている。
それを見る度、私はこう思うのだ。
「伊藤公雄先生、「他者を押しのけてでも、自分が優越しよう」という悪しき
「男性性」をお捨てにならなければならないのは、まずはご自分ではないのですか?」と。

------------
(注1)
伊藤公雄はそれをごまかすために「男性学・男性性研究」という複合語を使っていると
考えられる。伊藤公雄の「<男らしさ>の挫折」に「男性学」という単語や概念は
出て来ないので「80年代の男性学の代表」と書いてしまうとまずい訳だ。
しかし、男性性研究ではあるので、「男性学・男性性研究」と書けば取り敢えずウソでは
なくなるのである。
伊藤公雄の文章はこの手のごまかしが多すぎる。

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